債務整理|不当利得返還請求権

受講
原告
平成

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

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理由

上告代理人内藤満の上告受理申立て理由について
1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)
3条所定の登録を受けた貸金業者である。
(2) 被上告人は,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)を超える利率の利息の約定で,次のとおり,上告人に金員を貸し付けた(以下,これらの貸付けを「本件各貸付け」と総称する。)。
@ 平成7年10月2日7万円
A 平成8年4月4日12万円
B 平成8年10月2日17万円
C 平成9年4月7日22万円
D 平成9年10月8日25万円
E 平成10年4月7日24万円
F 平成10年10月7日25万円
G 平成11年4月6日28万円
H 平成11年10月4日30万円
I 平成12年4月26日30万円
J 平成12年10月3日35万円
K 平成13年5月8日35万円
L 平成13年11月1日35万円
M 平成14年5月2日30万円
N 平成14年11月5日30万円
O 平成15年5月1日30万円
P 平成15年11月4日30万円
(3) 上告人は,被上告人に対し,本件各貸付けに係る債務の弁済として,第1審判決別紙1の「年月日」欄記載の各年月日に「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下,これらの各支払を「本件各弁済」と総称する。)。
(4) 被上告人は,本件各弁済のうち,被上告人の店舗への持参の方法による支払がされた場合にはその都度「領収書兼残高確認書」と題する書面(以下「本件各領収書」という。)を交付したが,被上告人の預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には本件各領収書を交付しなかった。
被上告人は,本件各弁済のすべてに貸金業法43条1項の適用があることを前提として,受領した弁済金につき充当計算をし,本件各領収書を作成した。
2 本件は,上告人が,被上告人に対し,本件各弁済の弁済金のうち,利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分(以下「制限超過部分」という。)を元本に充当すると,第1審判決別紙1のとおり過払金が発生しており,かつ,被上告人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還及び過払金の発生時から支払済みまでの民法704条前段所定の利息の支払を求める事案である。
被上告人は,上告人に対し,本件各貸付けの都度,各回の返済期日,各回の返済金額及びその元本・利息の内訳並びに融資残額を記載した償還表を交付しており,上告人はこれを知った上で被上告人の預金口座に払込みをしていたものであるから,預金口座に対する払込みの場合に貸金業法18条1項に規定する事項を記載した書面(以下「18条書面」という。)を交付しなくても,被上告人は本件各弁済の時点において貸金業法43条1項の適用要件を満たしていると信じていたのであって,民法704条の「悪意の受益者」ではないと主張している。
3 原審は,次のとおり判断して,被上告人は民法704条の「悪意の受益者」であると認めることはできないとした。
悪意の受益者とは,法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうところ,法律上の原因の存否は,受益者の利得について問題とされるものである以上,受益者が法律上の原因がないことを知っているというためには,当然,当該利得の存在を知っていることをも要するものというべきであるが,被上告人が過払金の発生当時において,過払金の発生を知っていたと認めることはできない。
仮に,受益者が法律上の原因がないことを基礎付ける事実を認識している場合には自己の利得に法律上の原因がないとの認識を有していたことが事実上推定されると解したとしても,この点に関する最高裁平成8年(オ)第250号同11年1月21日第一小法廷判決・民集53巻1号98頁(以下「平成11年判決」という。)の前はもとより,最高裁平成14年(受)第912号同16年2月20日第二小法廷判決・民集58巻2号380頁(以下「平成16年判決」という。)までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたのであるから,本件では上記推定は妨げられるというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
金銭を目的とする消費貸借において制限利率を超過する利息の契約は,その超過部分につき無効であって,この理は,貸金業者についても同様であるところ,貸金業者については,貸金業法43条1項が適用される場合に限り,制限超過部分を有効な利息の債務の弁済として受領することができるとされているにとどまる。
このような法の趣旨からすれば,貸金業者は,同項の適用がない場合には,制限超過部分は,貸付金の残元本があればこれに充当され,残元本が完済になった後の過払金は不当利得として借主に返還すべきものであることを十分に認識しているものというべきである。
そうすると,貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが,その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には,当該貸金業者は,同項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者,すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定されるものというべきである。
これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,貸金業者である被上告人は,制限利率を超過する約定利率で上告人に対して本件各貸付けを行い,制限超過部分を含む本件各弁済の弁済金を受領したが,預金口座に対する払込みの方法による支払がされた場合には18条書面を交付しなかったというのであるから,これらの本件各弁済については貸金業法43条1項の適用は認められず,被上告人は,上記特段の事情のない限り,過払金の取得について悪意の受益者であることが推定されるものというべきである。
平成11年判決は,制限超過部分の支払が貸金業者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってされる場合について,貸金業法43条1項2号が18条書面の交付について何らの除外事由を設けていないこと,及び債務者は18条書面の交付を受けることによって払い込んだ金銭の利息,元本等への充当関係を初めて具体的に把握することができることを理由に,上記支払が貸金業法43条1項によって有効な利息の債務の弁済とみなされるためには,特段の事情がない限り貸金業者は上記払込みを受けたことを確認した都度,直ちに,18条書面を債務者に交付しなければならないと判示したものである。
被上告人は,上告人に対し,償還表を交付したと主張しているが,この償還表は,本件各貸付けの都度上告人に交付されるもので,約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載したものであるというのであるから,上記償還表に各回の返済金額の元本・利息の内訳が記載されていたからといって,実際に上記償還表に記載されたとおりの弁済がされるとは限らないし,払い込まれた弁済金が上記償還表に記載されたとおりに,利息,元本等に充当されるとも限らない。
したがって,平成11年判決の上記説示によれば,貸金業法43条1項の適用が認められるためには,上記償還表が交付されていても,更に18条書面が交付される必要があることは明らかであり,上記償還表が交付されていることが,平成11年判決にいう特段の事情に該当しないことも明らかというべきである。
なお,平成16年判決は,債務者が貸金業者から各回の返済期日の前に貸金業法18条1項所定の事項が記載されている書面で振込用紙と一体となったものを交付されている場合であっても,同項所定の要件を具備した書面の交付があったということはできないとしたものであり,被上告人が交付したと主張する上記償還表のような貸付けに際して貸金業者から債務者に交付される書面について判示したものではない。
そうすると,少なくとも平成11年判決以後において,貸金業者が,事前に債務者に上記償還表を交付していれば18条書面を交付しなくても貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるというためには,平成11年判決以後,上記認識に一致する解釈を示す裁判例が相当数あったとか,上記認識に一致する解釈を示す学説が有力であったというような合理的な根拠があって上記認識を有するに至ったことが必要であり,上記認識に一致する見解があったというだけで上記特段の事情があると解することはできない。
したがって,平成16年判決までは,18条書面の交付がなくても他の方法で元金・利息の内訳を債務者に了知させているなどの場合には貸金業法43条1項が適用されるとの見解も主張され,これに基づく貸金業者の取扱いも少なからず見られたというだけで被上告人が悪意の受益者であることを否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
5 以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。
そこで,前記特段の事情の有無等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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本人訴訟の場合、貸金業者側の反撃に遭い、後記の民法704条に基づく利息を付さない和解に追い込まれるケースが多いといわれ、また、後掲のように、取引履歴の不開示があったり、充当関係で複雑な事案であったりすると、本人訴訟で法律上正しい金額の返還を受けることは極めて困難なのが現実。

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